「天谷君、君の知り合いか?」
「昨日交戦した、イレギュラーのエナジー使いです」
「ああ、報告にあった彼か」
御門の方を向く。
「初めまして、イレギュラーなエナジー使い。僕は……」
「榊誠だろ。自己紹介ならいらねえよ」
「ふむ、どこかで会ったかな? 僕は覚えがないが」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
「確かに。これから私に捕えられる君たちにすれば、瑣末なことだな」
「かもな」
「会って早々悪いが、終わりにしよう」
「やってみろ」
右手をかざす。
「かわせ!」
二宮が叫ぶ。
「必要ない」
「止まれ」
御門の体が止まる。
「馬鹿な。わざわざ教えてやったというのに」
「彼女の言う通りだ。従ってかわしていれば、少しは長生きできたろうに」
「いらないからかわさなかったんだよ」
足元に黒い水たまりがうごめく。
「シャドー」
水たまりが人型になり、榊に迫る。
「なるほど、そういうことか!」
左手をかざす。
「止まれ!」
シャドーの動きが停止する。
「注意力散漫だな」
御門が拘束を解き放つ。
シャドーの背後を回り、榊に迫る。
「甘く見ないでもらおうか!」
再び右手を御門にかざす。
「止まれ!」
御門の動きが再び止まる。
シャドーにも動きはない。
「これで、僕の勝ちだ」
「お前はいつもそうだな」
「何……?」
御門の足元からもう一つ影が分かれる。
「そうしていつも、足元をすくわれるんだよ!」
影が膨れ上がり、巨人と化す。
巨人が両の手を頭上に振り上げ、一挙に振り下ろす。
「くっ……この!」
シャドーに向けていた手を解き、巨人に向ける。
「止まれ!」
言葉と共に、黒の巨人の動きが止まる。
が、
「だから言ってるんだ」
巨人の後ろから、御門が一気に距離を詰め、
「いつまでも三流だってな!」
榊の左頬を痛烈に強打する。
衝撃で榊は吹き飛び、地面に打ちつけられて引きずられる。
「榊さん!」
「来るな!」
天谷を制止する。
「せっかくの部下の気遣いを……もったいないな」
「黙るんだ。これで勝った気でいるのか?」
「俺は、お前の手の内を知っている。戦えば勝つことも分かっている」
「虚勢だ」
「もう試しただろ?」
細身の影と、巨人の影に視線をやる。
「まあいいか。どうせそんなに急ぎじゃない。そもそも、当初の予定は撤収だったんだ。なんの問題もない」
「負け惜しみは心の中にしまった方がいいぜ。みっともない」
「ふん、調子に乗っていればいい」
身を翻す。
「帰るよ、天谷君。妹尾君を回収するんだ」
「わかりました」
言い残すと、忽然と姿を消した。
「奴め、どこへともなく消えた……」
天谷は妹尾の下に行き、妹尾を肩に担ぐ。
「今日の所はこれくらいにしてあげよう……と言いたいところだが、助かったのは私たちの方かもしれないな」
「お前のそういう謙虚な所、嫌いじゃないぜ」
「現状からの冷静な判断だ。正直、君の実力が榊さんに匹敵するとは考えてもみなかった」
「随分過小評価だったんだな。あれだけ見せつけてやったのに」
「次に会うときは、もっと手を尽くさなければならないのだろうね」
御門に背を向ける。
「また会う時を楽しみにしている。御門」
妹尾と共に、姿を消す。